ドイツ・ベルギー・オーストリア・イギリス・スイスビール通販ショップ「欧州麦酒屋」がプロデュースする一話完結の欧州麦酒Cafe物語
〜 Prologue〜

「ようこそ欧州麦酒Cafeへ。 当店はベルギー・ドイツなどヨーロッパ各国のビールをおいしい食事とともに楽しんでいただく、専門のカフェレストランでございます」

グラス2 就職祝い

その日。

シメイブルーカウンターに陣取った一組のカップル。
仕立ての良いスーツをかっちりと着こなした、キャリア風の彼女(たぶん彼より五、六歳上)が注文したのは二人分のシメイブルー。ベルギービールだ。
まずは彼のグラスに注いでやり、それから自分のグラスにも注いだ。

そして乾杯。

「おめでとう、隆太。とうとう社会人ね」

「サンキュー」

細身の真新しいビジネススーツの彼は乾杯さえももどかしいらしく、さっそくビールに取りかかった。そしてまるで、居酒屋の生ジョッキをあおる勢いで、ごくごくと喉を鳴らしながら一気にそれを飲み干した。

「ハァー。仕事のあとの一杯はたまらんねー」

そして空のグラスを持ち上げて、

「すみません、同じの、おかわりお願いします」

と、今度は自分で注文する。

「ところで、今日は何をご馳走してくれるんだい?俺朝からずっと課長と一緒でさ、、緊張しっぱなしで腹ペコなんだよ」

「もちろん、飛び切りのご馳走を用意してあるから、楽しみにして」

そして彼女は出された二本目の小瓶を注いでやりながら、

「今度はもっと味わって飲んでよね」

と釘をさした。

「このビール、今のあなたと同じなんだから」

「俺と同じってどういう意味?」

「まあ、一口召し上がれ」

彼は差し出されたグラスを口に運び、今度は慎重に口に含んだ。

「うまい」

「うまいって、どんな風に?」

「うーん。さわやかな香りっつうのかな」

そしてもう一口飲んでみる。

「それに甘酸っぱいし。・・・どうよ、俺の味覚いい線いってなくねえ?」

「悪くないわよ。少なくとも味覚音痴ではなかったようね」

「で、このビールが俺と同じってどういう意味なんだよ」

「今自分でいったとおりよ。酸味があって爽やかで、でもちょっと甘いところもあって」

「おいおい」

「それにこのビール、すごく若いの。見てこのラベル、いかにも青くさい感じがしてこない?」

「やってられねぇ。どうせ俺はその青臭いってやつなんだろうよ」

「ほめてるのよ。それが持ち味なんだから。大事なのはそれをしっかり認識することよ。その上で責任ある行動をとってこそ、大人の男ってもんでしょう?」

いい?ビールだって良く味わえば、もっと楽しめるのよ。いつまでも体育会系の学生みたいに一気飲みばかりしてないで、もっと大人の飲み方を覚えなさい」

「説教するために呼んだのかよ」

「社会人としてのマナーを教えたいだけよ。これも私からのお祝い。さあ、それ飲んだら、そろそろ次の店に行くわよ」

「えっ、ここで食うんじゃないの?」

「ちょっと変わった創作フレンチのお店をみつけたの。ここは食前酒(アペリティフ)のために立ち寄ったのよ。」

「創作フレンチの食前酒のためにわざわざヨーロッパビールの専門店に寄ったって言うわけ?」

「あなた飲みに行くといつも、『とりあえずまずはビール』って言うじゃない?とりあえずじゃないビールもあるってこと、教えてあげたかったのよ」

「おそれいりました。やっぱいくつになっても、姉貴にはかないませんね」

閉店後。

午後十一時半。
店の中はスタッフの三人だけ。
私は洗ったグラスを磨いている。
シェフ八嶋は仕込みのための野菜をちょっといらつきながら刻んでいる。
店長阿倍はカウンターの客席に座り、ドイツビールを飲んで早くも酔っている

シェフ「しかし、今日のあの姉ちゃん、気にいらないね」

店長 「姉ちゃん?可愛い子か?」

シェフ「生意気なんですよ。弟の就職祝いだとかで偉そうに説教して」

私  「でもあのお姉さんの言ってることっていちいち当たってましたよね。だいたいあの弟、一杯目の飲み方最低でしたもん」

シェフ「そりゃ当たっているかもしれないよ。知れないけどさぁ。やっぱこういうところにきたら店に対する礼儀ってもんがあると僕は思うね。一応、僕だってフレンチは一通りやってきてるわけだし、ちょっと声かけてくれたら、つまりその、僕なりのアレンジしたフレンチくらいは披露してやったのに」

私  「まあ今日始めてのお客様ですし、気に入ってくださればまたご来店くださいますよ。そしたら絶対八島シェフのお料理気に入るはずです」

シェフ「ちょっとくらい変わったフレンチが何だってんだ、全く近頃は何でもかんでも馬鹿の一つ覚えみたいに創作料理とかふざけやがって」

店長「その可愛いおねえちゃんが創作料理にはまってるのか」

私 「店長は黙っててください。話がややこしくなります。だいたい忙しいのに、営業とか言って一日中外出ばっかしてるじゃないですか。人件費節約でスタッフは私たち三人だけなんですから、店長がしっかり働いてくれなくちゃ困ります。それにさっきからお店のビール勝手に飲んでますけど、ちゃんと支払ってくださいよ」

店長「分ってるさ。いちいちうるさく言うな。それより八嶋、お前をスカウトしたのは俺だ。ヨーロッパを浮浪しているときのお前を見初めて、それ以来、この俺がお前の味に惚れ込んできたんだ。わかってるな?」

シェフ「ええ、そりぁ、まあ、もちろん」

店長「よし。それじゃあ、二人ともそろそろ仕事切り上げて一緒に飲まないか?考えてみれば、オープンして以来、まだ三人で乾杯もしてないぞ」

シェフ「もちろん、店長のおごりですよね」

店長 「当たり前だ。城戸、何でも好きなビールだせ」

私  「でも・・・」

シェフ「いいじゃないの、城戸ちゃん、店長のおっしゃるとおりだよ。僕たちたった三人で開店以来頑張ってきたんだからさ、たまにはパーッとはじけようよ」

私  「それもそうですね、私もストレスたまってるしパーッとはじけちゃいましよう」

店長 「よーし。がんがんいくぞぉ」

一同「オー」

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